一日の苦労は一日にて足れり2005年12月22日 22:19

 たった一日でよい。明日もあさっても生きたいと思う
から、この世が面倒になってくる。今日一日を、何とか
人に面倒をかけず、健康で過ごせたらと、そればかりの
工夫なら、一日のことだから、雨でも嵐でも、まあ辛抱
ができるというものだろう。

 ”雁の寺”で直木賞作家となった水上勉氏が、こんな
ことを書き記している。氏のデビュー作は”フライパンの
歌”だが、これを刊行した後一時文学から離れていた。
十年ほど経た後”霧と影”で再起し、映画化された”五
番町夕霧楼”や”越前竹人形”など、数多くの作品を残
している。

 水上氏は、幼い頃臨済宗相国寺の塔頭で徒弟となった
経験があり、白隠禅師の師となった正受老人(道鏡慧瑞)
の”一日暮らし:一大事と申すは、今日只今の心なり”と
いう文がいたく気に入っていたそうで、自分もそのように
暮らしたいと思っていたが、心筋梗塞で生死の境を彷徨
った体験が、より一層その気持ちを強くさせたという。

 いたいけな命が意味もなく奪われるニュースや、私利
私欲のためだけに人を陥れて、平然とうそぶく拝金亡者
たちの厚顔に辟易としている毎日だが、気を取り直して
今日を生きることに専念したい。

 肩の力を抜いて、周囲に迷惑をかけることなく、一日
一日を飄々と、愉しく生きる。”明日のことを思い煩うな
明日は明日みずから思い煩わん。一日の苦労は一日
にて足れり。”直木賞作家でも、こういう心境になる事
もある。