三国志(その1)2005年07月30日 11:51

 日本人は「三国志」が大好きである。おそらく中国人
以上に愛読者が多いかも知れない。私も御多分に漏れず
ファンである。吉川英治の「三国志」を始め、陳舜臣の
「秘本三国志」、柴田練三郎の「英雄いかに死すべきか」
などなど、その壮大なスケールに惹かれて若い頃に夢中
で読んだ。今でも私の本棚には、吉川英治の「三国志」
全三巻が並んでいる。

 登場する英雄・豪傑は、いずれも個性的で魅力に溢れて
いるが、読者によって思い入れをする人物が異なるところ
である。三国の中で最も弱小であった”蜀”を中心に据えて
書かれたものが多いので、日本人の人気は諸葛亮孔明
や関羽雲長・趙雲子龍などに集まっているが、中国人に
とっては何と言っても関羽雲長である。

 関羽は、武勇と忠義の人であったが、なぜか商売繁盛
の財神として世界中のチャイナタウンに祀られている。
華僑の居るところには、必ず”関帝廟”がある。横浜の
中華街にも勿論ある。私も何度か行ってみたが、観光客
や在住の中国人の方々が、入れ替わり太くて長い線香を
持って訪れ、終日その煙が絶えないという。

 三国志を読んでいると、中国大陸をほぼ三分し三つの
国が拮抗して鼎立しているかのように見えるが、当時の
国力を比較してみると、曹操孟徳の”魏”が人口二千八
百万人、孫堅仲謀の”呉”が一千万人、主役の劉備玄徳
の”蜀”は僅か六百万人であり、史実としては”魏”の
一人勝ち状態であったといえる。

 にもかかわらず、今に三国志が長く語り継がれている
ということは、中国人にも弱者にエールを送る日本人の
判官贔屓に通じた哀感のようなものがあるのであろう。

 三国志といえば、乱世の姦雄と呼ばれ中国史上最大の
悪名を轟かせた曹操孟徳を主人公とした、漫画の三国志
「蒼天航路」が密かな人気を呼んでいる。作者は李學仁
(イ・ハギン)という香港の作家で、登場する人物達の
セリフが、なかなか洒落ている。私も現在までの34巻
全てを揃え、愛読している。