新宿:今佐別館2005年08月21日 18:56

 仕事を終えた後、気の置けない仲間と一緒に飲む一杯
は格別である。そして、何と言っても一番の肴は”愉快な
会話”だろう。

 もう30年ほど前の話である。新宿西口に”今佐別館”
という看板のかかった、ちょっと小綺麗な居酒屋があっ
た。今は移転してしまったが、当時の新宿郵便局の近く
である。仲居さんは、全員絣の着物に赤い襷がけという
出で立ちで、結構繁盛していたようだ。

 ある日、仕事を終えてから仲間四人で新宿に繰り出し
”今佐別館”で一杯飲っていた。私は初めてだったが、
ここは最年長の栗原さんが贔屓にしているようで、店の
対応も丁寧だった。

 酒が進むに連れて話に花が咲き、釣り自慢が始まった。
渓流釣りの話になった。私を除く三人とも、イワナ釣り
には、相当の思い入れがあるようだった。イワナは非常
にデリケートな魚で、人影を見ると岩の間にじっと身を
潜めて半日くらいは出てこないそうである。

 だから、どんなに仲が良くても、互いに自分の最良の
漁場だけは絶対に教えないそうだ。たった一人で秘密の
ポイントでひっそりと楽しむのが、イワナ釣りなのだ。

 三人の中で一番若い湯本さんが言った。”先日群馬の
ある沢で二束(200匹)も釣ってきた。家の冷蔵庫が
イワナに占領され、困っている。”するとそれを聞いた
我田さんが言った。”この間、実家の新潟の沢でイワナ
釣りをしたら、大きなポリバケツに入りきれないほど釣
れた。とても二束や三束どころではなかった。”

 二人の話をニヤニヤしながら聞いていた栗原さんが
言った。”先週丹沢に朝釣りをしようと思って夜中に沢に
入った。朝、顔を洗おうと思って沢に降りたところ、イワナ
が邪魔で、水がすくえなかった。”

 みんなで大爆笑した。やはり酒の肴には、楽しい仲間
との愉快な会話である。