国立療養所久里浜病院(その2)2005年11月03日 21:18

 病棟は二つに分かれており、彼が入った病棟は初めて
の入院患者を収容する所で、ごく普通の一般病棟という
感じであった。入院している他の患者さんも、一般病院
の入院患者と何ら変わらない。、痛がったり苦しんだり
していない分、むしろ病棟は明るい雰囲気であった。

 入院すると、徹底した断酒の効果が如実に顕れ、彼は
みるみる回復してゆき、元気な笑顔も戻ってきた。本人の
必死の努力と病院側の手厚いケアにより、ふた月ほどで
退院の許可が出た。

 退院に立ち会った時、主治医から退院後も決して酒を
飲ませないようきつく言われた。そして治る患者は最初
の入院できっぱりと酒を止める。もう一度入院するよう
であれば、治癒は難しいとも言われた。

 退院後、間違っても酒を飲まぬよう毎日”抗酒薬”を
飲むよう言われていた。薬は無色透明の液体で毎朝1回
10ccほどを服用する。これを飲んだ後、アルコールを
摂取すると酒がまずく、少量飲んだだけで気分が悪くなる
という。

 効果は一日で消えてしまうため、毎日飲ませなければ
ならない。退院後、毎日出勤してもらい私の見ている所で
薬を飲んでもらった。本人の自覚もあり、しばらくは良好な
経過を辿っていた。

 半年ほど経ったある月曜日、あきらかに酒気を帯びて
出社してきた。平日は職場で毎朝”抗酒薬”を服用させる
ことができるが、週末はそれができない。同居している
息子さんに期待するしかないのだが・・・。

 彼がまた飲み始めてしまったのは、別居している奥さん
から弁護士を通じて、社長宛に給与の差し押さえ請求が
出されたことがきっかけのようであった。