国立療養所久里浜病院(その1)2005年11月02日 21:41

 現役時代には色々なトラブルを山ほど処理してきたが
一番悲しかったのは優秀な部下をアル中で亡くしたこと
である。私が第一線現場にいた頃、一年後輩として同じ
支店にやってきた男で、仕事熱心でスポーツ好きのいい
奴だった。

 同じ支店ではあったものの職場が離れており、たまに
しか顔を合わせることはなかったが彼の熱心な仕事ぶり
は、私の職場でもしばしば耳にした。その後私は何度か
転勤し、いくつかの支店を渡り歩いた。

 私が都内支店のある部門を任された時、彼が同じ部門
の第一線現場の課長として転勤してきた。私は久しぶり
の再会を楽しみにしていたが、彼の顔を見た時私は愕然
とした。かつての英気溢れるあのスポーツマンの表情は
そこには無かった。

 一体何があったのか。果たして第一線現場の激務に
耐えられるのだろうか。私の脳裏に不安がよぎった。案の
定三月もしないうちに彼の上司から更迭の要請が来た。

 アルコール依存症、いわゆるアル中である。奥さんとの
不仲が原因であった。私はすぐに彼を自分の職場に引き
取り治療に専念させることにした。奥さんに相談しようにも
既に別居中で連絡が取れない。同居しているという息子
さんにも協力を要請したが、あっさりと断られた。

 一人でいれば、どうしても酒に溺れてしまう。産業医に
相談し、横須賀にある”国立療養所久里浜病院”に入院
させることにした。かつての海軍病院で、アルコール治療
の専門病院である。JR久里浜駅から、バスで20分ほど
揺られてゆくと、終点が久里浜病院である。

 その病院は、海が一望できる高台に建っていた・・・。