「典故300則」その2682013年06月14日 09:07


 “遺簪墜屨”という四字熟語がある。“遺簪:いしん”というのは“なくした櫛”の

ことであり、“墜屨:ついく”とは“落とした靴”のことで、どちらも愛用品をなくした

悲しみを表す言葉である。“墜屨”は、楚の昭王が呉との戦いの最中に靴をなく

したことを惜しん故事から来ている。では“遺簪”には、どんな故事があるのか。

 典故300則その268:遗簪 yi zan

 孔子と弟子達が出かけ、野外で水辺の草地に座り悲しそうに泣いている婦人

を見かけた。 孔子は怪訝に思い、弟子を呼び訳を聞きに行かせた。婦人が言

った。 “私は薪を刈っている時、不注意から蓍草(めどき)の簪(かんざし)を無く

してしまいました。”

 弟子が聞いた。 “あなたは薪を刈っているとき、簪を無くしたくらいで、どうして

そんなに悲しんでいるのですか?また作ればいいではないですか?”婦人が答

えた。“私は決して簪を無くしたのが悲しいのではありません、今まで使っていた

日々が忘れられないのです。”

 その後、“遗簪”、“亡簪”は旧知の友や思い出の品や、忘れがたい友情を喩え

るようになった。